非常事態宣言下に見た「マニラの平和」

執筆者:竹田いさみ2006年4月号

 週末、日本からフィリピンの首都マニラに向かうフライトは、いつものようにほぼ満席であった。大部分は、中高年の日本人ツアー客と、里帰りするフィリピン人女性だ。空港からホテルまで渋滞も無く、思ったより早く到着した。ホテルも満室状態で、チェックイン・カウンターから宿泊客の人波は途絶えることがない。ロビーはゴルフバッグを担いだ韓国人団体客でごった返している。部屋の窓から太陽がさんさんと降り注ぐ街中をのぞくと、いつものようにショッピングセンターへ大勢の人が吸い込まれていく。これは二月二十四日、アロヨ大統領が非常事態宣言を発した当日の、マニラ市内の一コマである。宣言が発令された時、筆者はちょうど機中におり、発令を知る由もない。 チェックインの段階で、数名から連絡が欲しいとのメッセージが届いており、不吉な予感に襲われる。ホテルの部屋から現地の知人に電話して、初めてフィリピン全土が非常事態宣言下にあることを知った。テレビのスイッチを入れると、装甲車が出動し、デモ隊と治安部隊がもみ合うニュース映像が飛び込んできた。CNN、BBC、NHKも同様の緊迫感漂うニュースを流していた。いったいどこで発生している事件なのか。狐につままれたとは、まさにこのような状態を指すのであろう。それほど市内は平穏であった。

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