郵政民営化の成功が至上命題なのは論を俟たないが、日本郵政・西川社長にはいささか“暴走”が目立つ。「塩を送れ」とまで要求されたメガバンクや地銀は、郵貯銀行との競合に備え、いかなる対策を練っているのか。 その瞬間、三井住友銀行の奥正之頭取は思わず耳を疑った。「優秀な人材が必要だ。部長、次長クラスを四人出してくれないか」 電話の主は“かつてのボス”。現在は「日本郵政株式会社」の社長を務める西川善文氏だった。日本郵政は二〇〇七年十月の郵政民営化に先がけて設立された準備企画会社で、来年十月に始動する四つの事業会社(郵便貯金銀行、郵便保険会社、郵便局会社、郵便事業会社)の持株会社、つまり司令塔である。 冒頭に記した電話の時期は一月下旬。西川氏は同時期に、他のメガバンク首脳にも人材提供を求める電話を掛けている。さらにそれと並行して、政府の郵政民営化推進室副室長から代表取締役として日本郵政入りした高木祥吉元金融庁長官が実際に各メガバンク首脳を訪問し、西川氏の意向を伝えた。そこまで念を入れたのは、郵貯銀行の収益の多寡こそが民営化の成否を決めると考えているからだ。民営化まで一年半しかないのに、日本郵政に銀行業務(特に融資業務)の“準備”と“企画”を進められる実務経験をもつ人材は乏しい。西川氏は焦っていた。

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