突如として浮上した証券会社による銀行買収計画。続報がピタリと止んだ背後にはどんな思惑が――。 三月二十三日夕方、日興コーディアルグループの有村純一社長は、東京・霞が関にある金融庁へ向かった。「面会相手は五味廣文長官や企画局系の局長クラスだった」(金融庁関係者)とされる。金融ビッグバンが進んだとはいえ、証券会社の登録権限を持つのは金融庁。日興の経営トップがその官僚に会うのは何も珍しいことではない。ただ、今回はいつもの“挨拶”ではなかった。 十五分程度で終わったとされる“挨拶”の中身は、銀行買収の“仁義切り”。日興は証券会社にとって念願の、ビジネスモデルの転換に動いていた。意中の買収相手は、関東圏を地盤とする中堅地銀の東京スター銀行である。「日興、東京スター銀 買収提案――証券初、銀行を傘下に」 翌二十四日、日本経済新聞は一面でそう報じた。色めきたつ金融業界とは対照的に、朝九時から金融庁で記者会見した与謝野馨金融担当相は「聞いていない」と、とぼけ顔を貫いた。当の日興は「まだ決まったことではない」と否定はせず、東京スター銀行は「提案は受けていない」とのリリースを出した。 日興が東京スターの株式を買い取るのは、総株数の七割近くを所有し東京スターの経営権をがっちりと握る米国の投資会社ローンスターからだから、まな板の鯉となった東京スターが「聞いていない」と戸惑うのは何も不思議ではない。

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