『歴史の終わり』(三笠書房)で知られるフランシス・フクヤマの新著である。これまでの著作を見ればわかるように、フクヤマの関心領域は幅広いが、本書は本来の領域に戻った米国外交論である。ネオコンの考え方を歴史的、哲学的に解剖し、その蹉跌を踏まえて「現実的ウイルソン主義」を提唱する。 この理論家の筆になる本書“America at the Crossroads”の構成は当然、論理的である。「本書は二〇〇一年九月十一日のアルカイダの攻撃以降の米国外交を主題とする」と書き始める前文で全体を概観する。本論は国際政治理論から入り、本書が決別宣言になるネオコンの考え方を分析する。そのうえで政策論に筆を進め、新たな世界秩序に関する自説を明らかにする。 フクヤマによれば、現在の米国の外交政策には四つの流れがある。第一にキッシンジャー流のリアリスト(現実主義者)である。力を尊重し、国際組織や人権を軽んじる。第二にリベラルな国際主義者だ。パワーポリティクスよりも、国際法や国際機構を通じた秩序を求める。第三にウォルター・ミードがジャクソニアン・アメリカン・ナショナリストと名づけた流れだ。狭い意味の安全保障に絡めて米国の国益を考え、多国間主義に不信感を持ち、孤立主義につながる。第四がネオコンである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。