オバマ訪日のバランス・シート

執筆者:柳澤協二2014年5月12日

 オバマ大統領訪日時の共同声明は、「尖閣は日米安保の適用範囲」、「日本の集団的自衛権の検討を歓迎」が盛り込まれ、安倍政権にとって「満額回答」の内容になった。だが、外交は、国益のバランスの体現である。欲しいものがタダで手に入ることはない。

 今回のオバマのアジア歴訪は、日本よりもアメリカの事情によるところが大きい。昨年秋のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に来られなかったこと、シリアやウクライナで有効な手立てが取れていないこと、中国のADIZ(防空識別圏)を一方的に設定させてしまったこと、さらに言えば、安倍首相の靖国参拝を止められなかったことなど、外交におけるオバマの失点を挽回するための機会だった。

 オバマとすれば、同盟国との盤石の関係をアピールすることが必要だった。日本側は、その弱みにつけ込んで、まず、欲しいものを手に入れた。だが、「支払い」はこれからだ。議会の委任をとれないオバマ政権としては、今後のTPP(環太平洋連携協定)交渉で、日本に大幅な譲歩を迫って来るに相違ない。では、日本側は、欲しいものを本当に手に入れたのか、と言えば、どうやらこれも、アメリカが振り出したカラ手形に近い。

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