「医療事故」を解明できるのは誰なのか

執筆者:沢木実緒2006年5月号

医療事故の真相解明は「専門性の壁」に阻まれる。あとを絶たないトラブルの解決策はどこにあるのか。「えっ、本当か」 東京のある検察官は、思わず驚きの声を上げたという。 福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた二十九歳の女性が死亡し、執刀医の逮捕が報じられた二月のことだ。連日のように報道される医療事故で、医師の逮捕に至るケースはほとんどない。これまででも、事故を隠蔽しようとカルテを改竄した東京女子医大事件など二件だけだ。 事故が起きたのは、二〇〇四年十二月。女性は胎盤が子宮口にかかる「前置胎盤」で、起訴された加藤克彦医師(三八)が帝王切開で児をとりあげた。その後、胎盤を子宮壁からはがす際に大量出血し、準備した輸血用血液も足りず女性は死亡。大量出血の原因は、胎盤が子宮壁にくっついてしまう「癒着胎盤」だった。 福島県警・地検は「大量出血の可能性を認識しながら、十分な態勢をとらずに胎盤を無理にはがした」ことを判断ミスと指摘。これに対し、日本産科婦人科学会などは「数千人から一万人に一人のケース。癒着胎盤は術前診断が難しく、治療の難度も高い。高次医療施設においても対応が困難」としている。あいまいな「異状死」の定義

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