エルドアン首相が率いるトルコの岐路

執筆者:安東建2006年6月号

世俗主義を国是としながらも、与党AKPはイスラム系。複雑な国家の行方は、この人物にかかっている。[イスタンブール発]国民の九九%がイスラム教徒のトルコが、昨年十月、欧州連合(EU)加盟交渉開始にこぎつけた。最終的な加盟の保証はなく、交渉の結果が出るのに十年はかかるというのに、長年の悲願達成で国内はサッカーのワールドカップで優勝したようなお祭りムードだった。その立役者が、レジェプ・タイップ・エルドアン首相だ。 イスラム系政党としてトルコ史上初の単独政権を握る公正発展党(AKP)の創設者にして党首。二〇〇三年三月の首相就任以来、EU側から突きつけられた刑法改正など内政上の難題を矢継ぎ早に解決し、欧州の一員となるべく熱意を傾けてきた。世俗国家トルコを率いるイスラム系政党党首エルドアン氏とはどんな人物なのか。その足跡をたどると、世俗主義とイスラムの間で揺れるトルコのあり方が見えてくる。 一九五四年、北東部の黒海に面した町リゼに生まれ、沿岸警備隊員だった父は一家でその後イスタンブールの金角湾に面する貧しい地区に移る。貧しいながら敬虔なムスリム(イスラム教徒)家庭の息子は、普通科高校ではなくイスラム神学校(イマム・ハティプ)を選ぶ。街角でパンやジュースを売りながら教科書代を稼いだ若者は、市の運輸局での勤務や兵役の後、八三年にイスラム系政党の福祉党(後に解党)に入党。党イスタンブール支部長から九四年には市長選で当選を果たした。

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