三月の末から四月を通じて世界の中東論を賑わしたのは、ジョン・ミアシャイマーとスティーブン・ウォルトの共著論文「イスラエル・ロビー」(英『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』誌三月二十三日号)だった。ミアシャイマーはシカゴ大学の政治学教授、ウォルトはハーバード大学の政治学教授でケネディ行政大学院の院長を兼ねる。共に国際政治学の「リアリスト(現実主義者)」を代表する重鎮である。 この論文には長短二種類があり、長い方は三月十三日にハーバード大学ケネディ行政大学院のウェブサイトに、二百十一もの注を付したワーキングペーパー(報告書)として掲載された。こちらには「イスラエル・ロビーとアメリカ外交政策」というタイトルがついている。 論文が捲き起こした反響を踏まえて筆者二人は『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』誌の五月十一日号で主要な批判に応えており、論議は一巡した感がある。そこで、論争の経緯と意義を振り返っておきたい。 まずミアシャイマー/ウォルト論文の概要を示しておこう。論文では、アメリカの中東政策が第二次世界大戦後、とくに一九六七年の第三次中東戦争以来の四十年間、イスラエルとの特別な関係を維持することを最重要課題にしてきたという認識を示す。韓国やスペイン並みの一人当たりGDP(国内総生産)を誇るイスラエルに対し、アメリカは毎年三十億ドルもの直接援助を「年度はじめに一括で支払い、使途を問わない」という好条件で行なってきた。

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