天安門事件とテレサ・テン

執筆者:野嶋剛2014年6月10日

 天安門事件が起きた6月4日が過ぎて、中国政府は先月から身柄を拘束していた数人を釈放した。このなかには、元社会科学院研究員・徐友漁、日本経済新聞重慶支局の助手の女性なども含まれているが、弁護士の浦志強はまだ釈放されていない。1カ月強の拘留期限まであと1週間を切っている。どうやら、当局のターゲットは周永康問題を取り上げていた浦志強だった可能性がある。浦志強が釈放されるかどうか、引き続き注目していきたい。

 これとは別に、天安門事件の日を迎えるたびに思い起こすのが、テレサ・テンのことだ。

 天安門事件によって、どれだけ多くの人の運命が変わったのか想像がつかないが、テレサ・テンもまた、その劇的な時代の渦に自ら飛び込み、結果的に人生が翻弄された1人である。

 1989年5月27日、香港のハッピー・バレーで開かれた「民主の歌声を中華に捧げよう」という集会に、メークなしの「民主万歳」と書かれたはちまき姿で登場したテレサ・テンは「私の家は山の向こう」という歌を歌った。爆発寸前の深い感情を抑えつつ、美しい情感をこめて歌い上げた歴史的なシーンである。いまでもその映像がYouTubeで見られるので、ぜひ見て欲しい。AKB総選挙のような計算された演出の感動ではなく、本当に感動させられる。

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