中国大使館参事官よ出てこい!

執筆者:徳岡孝夫2006年6月号

 一九六〇年代の話。バンコクへ特派員として赴任した私は、日本大使館へ挨拶に行った。大した情報の出どこではないが、まあ表敬訪問である。大使室で名刺を出して「秋には佐藤総理が訪タイされますが」と会話を試みた。大使は言下に答えた。「あんなヤツ、世が世ならば叩ッ殺してやるところだ」 内心おやおやと呆れた。だが、この人はこういう物の言い方をする人なんだろうと善意に解釈し、着任の挨拶だけで帰った。いまでも少し後悔している。オフレコの約束もなかったし、あれは「現地の××大使は今秋に公式訪問する佐藤栄作首相を、口を極めて罵った」と、記事にすべきだった。 ヘンな大使は、日本だけではないらしい。「ジャカルタ駐在のパレスチナ大使が発狂した」という小さい記事がアジアの新聞に出ていた。 リビヒ・アワド氏は六十五歳。パレスチナ大使の印綬を帯びてジャカルタに来て十四年になる。この一月に帰還命令が出たが、無視して居座っている。大使としての職務は、何一つ遂行していない。臨時代理大使は「大使の精神状態には重大な疑問がある」、つまり発狂したとインドネシア外務省に連絡した。外交特権を持つ人が大使館を兼ねた公邸に住んでいるから、インドネシア政府は彼を放り出せない。後任はまだ決まっていない。

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