新日本製鉄のフラッグシップ・ミル(旗艦製鉄所)である君津製鉄所は、千葉県君津市の東京湾に突き出た一一七二万平方メートルという広大な埋め立て地にある。東京ドーム約二二〇個分。東京湾を挟んで一七キロ離れた対岸がちょうど横浜市である。 敷地の南端にあるのが、世界第二位の五五五五立方メートルという容量の第四高炉だ。原料となる焼結鉱やコークスが投じられる炉の頂部は地上高一二五メートルもある。高炉の下には、鉄鋼製品の基となるどろどろに溶けた銑鉄を次工程に運ぶ貨車を受け入れるために六本の引き込み線が敷かれている。 その威容に息をのみ、まさに「鉄は国家なり」を実感する。しかし同時に、田舎の貨物駅を見ているようなほほえましさも感じた。それは、銑鉄をラグビーボールのような貨車(トーピードカーという)に注ぎ製鋼工場へと運ぶ牽引車の運転手が、まだ二〇歳代と思われる若い女性であったからかもしれない。“男”の象徴であるかのような鉄の世界で、“女”が淡々と仕事をこなしている。その融和の妙が、ほほえましく感じさせるのだろうか。彼女は牽引車の先頭部につかまり、手元にあるリモコンを巧みに操作してトーピードカーを数百メートル離れた製鋼工場へと導いていく。

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