人口は中国に次ぐ十一億人。このうち消費の活発な中間層(年収三千ドル以上)は二〇〇五年段階では六百万人だが、これが爆発的に増えて、二〇二五年には四億人、二〇四五年には十四億人に達する――。 市場としてのインドについて、よく耳にする数字だが、中間層云々という話のベースは、二〇〇三年の秋に米国の大手投資銀行、ゴールドマン・サックスがまとめたリポート。そのリポートでインドはブラジル、ロシア、中国とともに、その頭文字から「BRICs」と名付けられ、海外からの投資に拍車がかかった。 とはいえ、インドで製品やサービスを販売する企業にしてみれば、こうした大括りの数字はあまり役に立たないようだ。「インドで売る」ために不可欠なのはむしろ、ミクロレベルの事実だろう。 端的な例は食品大手の味の素だ。中国、台湾、韓国から東南アジアにかけて旨味調味料はよくも悪くもメジャーな食材になったが、インドでは違う。料理の際にダシを取る習慣がないため、ダシの代替品である調味料の存在意義が薄いのだ。 味の素がインドに現地法人を設けて販売に取り組み始めたのは二〇〇三年になってからのこと。経済成長による食生活と味覚の変化に期待してのインド進出だった。人口がどれほど巨大であっても、味の素にとってインド市場はまだ小さい。

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