2012年大統領選挙でのバラク・オバマ大統領の再選を受けて、2013年1月に招集された第113議会で成立が最も期待された法案の1つは包括的移民法改正法案であった。2012年共和党大統領候補であったミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事は同党の大統領候補指名獲得争いの中で保守派有権者の支持を獲得するために、不法移民に対してはニュート・ギングリッチ元下院議長やリック・ペリー・テキサス州知事といった他候補よりもより厳しい姿勢を鮮明にしていた。その結果、ロムニー氏はフロリダ、ニューメキシコ、コロラド、ネヴァダといったヒスパニック系有権者が多数居住している「接戦州」でオバマ大統領に次々と敗北するとともに、ヒスパニック系有権者全体のわずか27%の票しか獲得することができず、共和党とヒスパニック系有権者との関係悪化を改めて露呈する結果となった。そのため第113議会では、共和党の中からもヒスパニック系有権者との関係改善を求めて、包括的移民法改正法案の成立に真剣に取り組む動きが顕在化してくるのではと筆者も期待を寄せていた。

 

 実際、そうした動きは第113議会招集直後から上院共和党で表面化した。マルコ・ルビオ(フロリダ州選出)、ジョン・マケイン(アリゾナ州選出)、ジェフ・フレイク(アリゾナ州選出)、リンゼイ・グラム(サウスカロライナ州選出)といったヒスパニック系有権者の多い地域から選出された共和党有力上院議員4名は、チャック・シューマー(ニューヨーク州選出)やロバート・メネンデス(ニュージャージー州選出)ら民主党上院議員4名とともに包括的移民法改正法案の成立を目指した。所謂、「8人組(“Gang of Eight”)」と呼ばれたこれら超党派の上院議員は、米国内にすでに約1100万人滞在していると見られる不法移民に対し、一定条件を満たしていれば法的地位を付与する一方、メキシコとの国境警備の強化も規定した包括的移民法改正法案である「国境安全・経済機会・移民近代化法案(S.744)」を提出し、委員会審議を経て、約1年余り前の2013年6月27日に上院本会議で賛成68票、反対32票の賛成多数で可決されている。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。