六月十四日、台湾の最大野党・国民党が台北市内の一等地にあった党本部ビルを引き払い、オフィスビルに引っ越した。孫文が一八九四年に前身の興中会をハワイで結成して以降、国民党は日中戦争、国共内戦など近代中国史の激動とともに本部の移動を余儀なくされてきた。今回が実に十七回目だという。 手放した土地は第二次大戦後、日本から接収していた。九八年に使い始めた十二階建ての豪華ビルは総統府に対峙して建ち、国民党の権威の象徴だった。買い取ったのは台湾の運輸最大手、長栄(エバーグリーン)グループの創業者である張栄発総裁が出資する財団だ。価格は約二十三億台湾ドル(約八十億円)。長栄側はビルを海事博物館や音楽ホールとして使うというが、真の目的は国民党との関係改善と、同党と昨年春のトップ会談以降、急速に接近している中国共産党とのパイプ作りにある。 長栄は、日本統治時代に海運会社の事務員となり、後に乗組員も経験した張総裁が一九六八年に設立した。船の調達や資金繰りで主に日本の丸紅の協力を仰ぎながら、年商が約四百二十億台湾ドル(千五百億円)の長栄海運、同約八百八十億台湾ドル(三千億円強)の長栄航空を擁する運輸の一大グループに発展した。しかし、成長はここ数年頭打ちとなっていた。

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