排出権“供給大国”の中国にチャンスあり

執筆者:本郷尚2006年8月号

 途上国での温室効果ガス削減に協力し、その「排出権」を先進国企業が取得するビジネスが本格化している。このクリーン開発メカニズム(CDM)を活用するには国連への登録が必要となる。現状の登録案件の六割はブラジルなど中南米で、排出権ビジネスでは先進国。だが、排出権供給量では中国が四割を占める。厳しい削減目標を負う日本と欧州は、今や世界最大の排出権市場となった中国で、激しい争奪戦を繰り広げている。 温室効果ガスにはフロンガスや二酸化炭素(CO2)などがある。中国ではまずフロンガス処理が排出権の中心となった。すでに成立したわずか三つの案件の排出権は、日本政府の今後五年間の調達計画(CO2換算で約一億トン)に匹敵する。 それ以上に潜在的可能性を秘めるのがエネルギー効率改善だ。中国のCO2排出量は米国に次ぐ量で、日本の二倍以上。しかも一人当たりのエネルギー消費は米国の八分の一、日本の四分の一程度であり、まだまだ増える。一方電力や製鉄などエネルギー多消費産業の熱効率は国際水準に比べて二―三割悪いとされる。多大な環境負荷が、裏を返せば巨大市場に変わる。 二〇〇三年に山西省は、老朽化し、周辺への煤塵や亜硫酸ガス公害から「野焼き」とも形容されていた十九基のコークス炉を閉鎖。日本の国際協力銀行の支援で最新鋭の設備を建設し、エネルギー効率が大幅に向上した実例となった。他にも、エネルギー効率の悪い小型の製鉄所(ミニミル)の廃止や新鋭設備への統合、ロシア型発電設備の近代化や送電ロスの改善など“有望分野”は数限りない。中国が抱える前近代的な設備がビジネスチャンスを生む構図である。

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