北朝鮮「抑止」のための論点を整理する

執筆者:田中明彦2006年9月号

 北朝鮮のミサイル発射からすでに一カ月以上がたち、イスラエルとヒズボラの戦争に国際社会の関心が移るなか、北朝鮮の問題への注目度がやや低下しているように思う。しかし、とりわけ日本にとっては、北朝鮮を取り巻く情勢は、決して楽観を許さない状況にある。北朝鮮のミサイル発射以後の事態を観察して、論点を整理しておく必要がある。 第一に確認すべきは、北朝鮮の弾道ミサイルの能力についてである。本稿執筆時には、まだ防衛庁のこの問題についての報告書は発表されていないが、少なくともスカッドとノドンの二種類のミサイルについては、相当精度が高いということがいえそうである。かりに北朝鮮が日本を攻撃目標にするとすれば、東京など大都市や米軍基地などの周辺への危険は極めて大きいということになる。通常弾頭であっても、直撃された箇所に大被害がでるであろう。大量破壊兵器(核、化学兵器、生物兵器)が搭載可能かどうかはわからないし、技術的には難しいのではないかと推測されるが、時間がたてばたつほど、搭載可能性は高まり、もし大量破壊兵器が搭載された時の被害は想像を絶する。 第二に、弾道ミサイルの攻撃に対しては、現在のところ防御手段はない。弾道ミサイル防衛システムを現在整備している最中であるが、本年度中に米軍と自衛隊のPAC3の配備が開始されるにすぎない。しかも弾道ミサイル・システムが予定どおり配備されたからといってミサイル防衛が一〇〇%確実に行なえることはないであろう。したがって、弾道ミサイル防衛の努力は継続しなければならないが、やはり、この脅威への対処は、もっぱら「抑止」によって、攻撃を思い止まらせるということになる。

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