開幕せずに終わった芝居

執筆者:2006年9月号

 自民党総裁選まであと一カ月。さぞかし永田町は、と覗いてみたら、もう「安倍総裁」で決まったよ、とベテラン職員が耳打ちしてくれた。あとは、高い入場料(党費)を払ってくれた百三十万人の人に金を返せと言われないようにするために、形ばかりの総裁選をやるだけだという。 実はもう、小泉首相が伴走する形で「安倍政権」は始まっているのだ。小泉首相といえば、「これから始まるのが本格的な権力闘争だ。よく見ておくがいい」などと若い代議士たちに解説までしてやっているが、もはや緊張感はまったくなく、国内外の卒業旅行のあとは、五年半のアルバムの整理に没頭するぐらいしかすることがない。 だれがこれほどつまらない総裁選にしてしまったのか。「安倍総裁」へのレールを敷いた小泉首相はともかくとして、世論調査だけを判断基準におくマスメディアの責任だ。三十年以上前の「三角大福(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫)」を真似て「麻垣康三」というコピーを考え出したのは、永田町でもあまり知られていない政治評論家だという。大手メディアはまるでこの四人しか候補者がいないかのように報道を続け、結局のところ他の候補者の道をふさいでしまった。何分にもこの四人しか総裁選報道の対象にならないから、世論調査では「その他」扱いになってしまう。世論調査で一%未満の支持率では、総裁選に出ろと言うほうが無理というものだ。おまけに「麻垣康三」といっても圧倒的に「三」すなわち「安倍晋三」に傾斜した報道である。ならば安倍氏のどこがすばらしいのか、メディアは報じない。たぶん、メディアもどこが長所なのか、何が実績なのか知らないのだろう。

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