「改革」を唱え続けた小泉政権が間もなく終わる。バブル崩壊以来の好景気を迎えた現在、小泉政権下の経済改革を評価する声もあれば、行き過ぎと批判する声もある。市場原理主義が格差社会を生んだ、と。 だがその批判は果たして正当か。“市場原理主義”という経済学には無い造語を用いるのは、時代の雰囲気に左右された議論ではないのか。現在の経済現象を解き明かすには、それを支える確固たる視点が必要である。 本書『日本の経済システム改革』は、バブル崩壊後の十五年間の変化や、日本経済が抱える問題の処方箋を、最新の経済学の理論を根拠としながら語り尽くす意欲作だ。 著者の鶴光太郎氏は、経済産業研究所上席研究員として第一線で活躍する経済学者。「複雑な経済現象を一目で見渡せるような視点を人々に提供するのがエコノミストの重要な役割」という著者の使命感は頼もしい。 本書の視点は、国単位の経済システムの優劣を比較するものではない。また、経済活動を市場メカニズムで全て解説するのとも違う。市場のプレイヤーである「企業」が焦点となる。 最大利益を求める企業の行動基準は、市場メカニズムだけでなく、企業の内部にも存在する。経営者と労働者との雇用契約、経営者と銀行・投資家との金融取引、経営者と株主とのコーポレート・ガバナンス(企業統治)、「系列」に見られる企業間取引、所管官庁による規制――多数の契約や取引を抱えながら、企業は自らの行動基準を設定する。そうしたルールを多角的に把握し、綿密に分析するのが本書の手法だ。

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