今年六月、独フォルクスワーゲン(VW)はインド北部のパンジャブ州に自動車工場の建設を決めた。VWが当初、進出を目論んでいたのは、南部のアンドラプラデシュ(AP)州だったが、こちらは昨年発覚した汚職事件で水に流れた。AP州側の企業誘致担当者とVWの子会社幹部の間に不明朗な金銭のやりとりが発覚し、印独両国で一大スキャンダルとなったのだ。「個別の外国企業の誘致は各州政府の仕事」。インドの経済政策の絵図を描く計画委員会の首席顧問、プロナブ・セン氏はそう断言する。インドに進出する外国企業は増加の一途だが、一方で、インド各州の間では誘致競争が激化している。 州政府が企業に用地の提供や道路の整備、州税面での優遇といったインセンティブを与えることは、もはや常識。VW汚職の場合、子会社の役員が合弁企業への出資金名目でAP州側から資金を引き出していた。 規模はともかく、州政府レベルではこの種の腐敗は珍しくない。ニューデリーを拠点とするジャーナリストは、「中央政府は何をどうしてもなかなか動かないが、州政府となると、よくも悪くも裏のルートが機能する」と明かす。 中央政府の高級官僚は、英国統治時代の名残もあり、高度成長期の日本のキャリア官僚以上に能力が高く、責任感も強いと言われる。だが、州以下の地方自治体となると話は別だ。

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