民間資本の蓄積が乏しかったインドではタタ、ビルラなどの有力財閥がほぼ独占的に国内の経済活動を担ってきた。だが、これらの財閥も世代交代や国際化の流れの中で徐々に経営改革を迫られ、ITや電気通信、大型小売業といった新分野への多角化を進める一方、外国企業の買収など事業の海外展開にも積極的に取り組み始めた。 インドで最も著名な財閥「タタ・グループ」は、コーヒー・紅茶から自動車、鉄鋼、電力、そして電気通信やIT、ホテルチェーンまで七部門九十三社を抱える巨大コングロマリットで、インド人の生活はタタを抜きには語れない。同グループの二〇〇五年度総売上高は約二百二十億ドル。インドの国内総生産(GDP)の実に二・九%を占めた。 創業者ジャムセドジー・タタは、その昔にペルシャ帝国から移住してきたゾロアスター教徒「パルシー」の出身。英植民地下のボンベイ(現ムンバイ)で、インド人だからと高級ホテルへの立ち入りを拒まれたタタは「それなら自分で誰でも泊まれるホテルをつくる」と一念発起。こうして一九〇三年に完成したのが今もムンバイ中心部の海沿いに建つ「タージ・マハル・ホテル」だ。 タタと並び称されるのがリライアンス・グループ。日本の「近江商人」に匹敵するインド西部の商業コミュニティー「グジャラティ」から出た先代のディルバイ・アンバニが、ガソリンスタンド店員から身を起こし、一代で築き上げた。リライアンスは繊維から石油化学、原油・天然ガス開発などに事業を拡大。跡を継いだ二人の息子によってインド最大の民間企業リライアンス・インダストリーズなどを擁する巨大企業グループへと成長した。

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