日本では、昨年夏の参院選で「得票がゼロ票なのはおかしい」との抗議を受け、香川県高松市選管による不正開票が発覚したことがあった。

 7月9日に実施されたインドネシアの大統領選挙でも、公式結果で敗者となったプラボウォ・スビアント候補が憲法裁判所に不服を申し立てた際の理由の1つが、複数の地区での「得票ゼロ」だった。ところが、8月21日に下された判決では、この「得票ゼロ」が実際に確認されたにもかかわらず、問題とは見なされず、「伝統的な投票慣習」の結果だったとして法的に認められた。

 筆者も、この判決が下されるまで、インドネシアの特定の地域でこのような投票慣習があることを寡聞にして知らなかった。この伝統的な投票慣習を紹介しながら、外部から導入された近代的な政治システムと伝統的な文化慣習とをインドネシアがいかに両立させているのか、その知恵を紹介する。

 

「ノケン式投票」という慣行

 プラボウォが不正投票だと指摘したのは、パプア州の一部県において自らの得票がゼロだったという開票結果がもとになっている。この得票ゼロという結果は、実際の投票が行われなかったことを示しており、選管職員が投票結果を捏造したからだとプラボウォは主張し、投票のやり直しを求めた。

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