「酸性化」する海洋をこのままにするな

執筆者:トマス・ラブジョイ2006年10月号

「酸性海(acid ocean)」は、生態系や漁業だけでなく大気中の二酸化炭素濃度にも致命的悪影響を与える“知られざる危機”だ。[ワシントン発]環境問題や環境保護といえば、土壌や大気、河川などの問題だと思う人がほとんどだろう。我々が陸上で生活していることを思えば、それも驚くには当たらない。しかし、地表の三分の二を占める海洋は極めて重大な意味を持ち、我々が少なくとも同じくらいの関心を払うべき問題と言える。 いま対応が求められる海洋問題は、枚挙に遑がない。横行する乱獲とそれに伴う漁業の破綻、(赤土の流出によって)世界中の沿岸水域で巨大化する“死の海域(貧酸素水塊)”、森林の皆伐にも匹敵する規模の底引き網漁、そして漁業の巻き添えとなって死んでいく生物の多さ――漁網や釣り糸に掛かっていたずらに命を落とすサメやウミガメ、そしてアホウドリなどの海鳥は後を絶たない。 中でも非常に深刻なのが、海水の酸性度が上昇しているという事実である。これは気候変動とともに、かつて例のない重大な環境変化と言えるが、科学者や一部の専門家以外にはほとんど知られていないのが実情だ。 十八世紀半ばに始まった産業革命以前に比べて、海水は既にpHで〇・一も酸性度を増している。こう言うと、わずかな変化としか思われないかもしれないが、言い換えれば酸性度が三〇%も上昇しているということを意味する。我々が医師に健康診断を受けるように、地球の今の「体調」を診断してもらうならば、相当なリハビリが必要なくらい憂慮すべき状態であることがわかるはずだ。

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