ネットを取り込む“したたかな”資本主義

執筆者:喜文康隆2006年10月号

「経済学者は、自分が計測することのできる領域しか扱うことができない。非市場的な領域に侵略を開始するためには、目盛りをつける新しい物差しを必要とする」(イヴァン・イリイチ『シャドウ・ワーク』)     *「資本主義というのはしたたかなシステムですよ。それを理論的に支えてきた新古典派の経済学というのも、それほどやわなものではありません」 卓越した近代経済学者でありながら、貨幣論や会社論でユニークな“反・資本主義”的論考を発信しつづけている岩井克人東京大学教授から、こんな言葉を聞いて、その現実感覚に感心したことがある。 福沢諭吉は明治十二年八月に『民情一新』のなかで、蒸気船・車、電信、郵便、印刷の発明工夫による「利器」がもたらす、ダイナミックな変化を予言した。諭吉が天才的な先見性で語った「郵便、印刷」という「インフヲルメーション(情報)」による世界の変化は、百三十年の時を超え、Web2.0に象徴されるネットワーク社会が、実物社会のルールや仕組みを変えていく姿に重なる。 それは人と人を繋ぐネットワークが資本主義の矛盾を超越するという、ナイーブなネットワーク論者の描く未来ではない。未踏の市場を「インフヲルメーション」で繋ぎあわせ、資本主義に組み込んでいく過程である。

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