夏休み明けの九月、一八都道府県の中学・高校九千数百校に“壁新聞”が貼り出された。「Shipbuilding News vol.1 暮らしを支える造船業」というタイトルで、国内外の物流の実情と、それを支える造船業の姿を紹介している。裏面には教師用の解説記事も掲載されている。 壁新聞を制作・配布したのは、大手の造船会社二〇社でつくる日本造船工業会。今年度から始めた造船産業についての啓発活動の一環だ。今後、年四回、新聞発行を続ける。 事業担当である日本造船工業会企画部長の高橋哲夫は、「中・高生の使う教科書に造船産業の記載があっても一カ所程度で、完全なる衰退産業の扱い。『日本は、まだ船を造っているんですか』と真顔で言う人もいる」と苦笑いする。「本当ですか」と聞き返したが、冷静に考えれば分からないでもない。 昭和二〇―三〇年代生れの世代には、「出光丸」「日石丸」「日精丸」などの世界記録を塗り替える大型タンカーの相次ぐ竣工が記憶に残っている。「大きいことは良いことだ」の時代風潮とも相まって、造船業は、重厚長大産業で世界に邁進する日本の象徴だった。 しかし、昭和五〇年代半ば、つまり一九八〇年代以降に生れた人たちが知るのは、二度のオイルショックと円高で設備削減を強いられ、しかも造船不況にあえぐ姿でしかない。唯一明るい話題といえば、竣工した豪華客船の華やかさぐらいである。

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