ますます激化する中国「江沢民派潰し」

執筆者:藤田洋毅2006年10月号

六中総会を目前に、そして五年に一度の党大会を来秋に控え、権力闘争の火花はいやがおうにも激しく散り始めた。 山東省泰安市の幹部が、地面に転がった。今年四月末からの江沢民前総書記の山東入りを前に準備していた時だ。省党委員会は、五月一日に泰安市にある五岳(中国五大名山)のひとつ泰山に江が登ると事前通知し、細かな指示を発した。彫刻や装飾を施し御をめぐらせた輿も準備するように。市党委は職人を動員し輿を造らせた。だが、市トップの党委書記が乗り心地と安全性の確認を命じたところで小さな騒動が起きた。「畏れ多くて誰も乗ろうとしない。仕方なく書記は局長級の幹部に命令した。幹部は渋々乗ったが、あまりの緊張と“皇帝の玉座”を穢した祟りを恐れ、輿から下りた瞬間、腰を抜かし地面を転げまわった」というのだ。 山東省政府幹部から直接この騒動を耳にした党中央の中堅幹部によれば、泰山は歴代皇帝が国家統一を天に報告する「封禅の儀」を行なった歴史的名所の世界遺産。迷信深い江は過去の皇帝と同じように輿を準備させた。“先帝”のトウ小平も強く意識していた。改革・開放への路線転換にめどをつけたトウは一九七九年、やはり輿に乗り、霊山として五岳に劣らず有名な黄山(安徽省)に登った。当時の公開映像は、杖を片手に立ち止まり“偶然に”出会った女子学生らと談笑するトウの姿ばかりだが、実はトウはほとんどの行程で輿に乗った。江周辺は九二年のトウの南方視察(南巡)になぞらえ、“東巡”と持ち上げもした。

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