「北朝鮮が間もなく核実験を実施する模様」との急報が安倍晋三首相の下に届いたのは十月九日午前十時四十分ごろ、北京からソウルに向かう政府専用機の中だった。北朝鮮外務省から「二十分後に核実験を行なう」と通告を受けた中国外務省はその旨を北京の日本大使館に伝え、東京の外務省経由で首相に同行していた同省出向の林肇秘書官に至急電が入ったというルートだった。日本の気象庁をはじめ各国の地震観測機関は、午前十時三十五分ごろに北朝鮮北東部を震源地とするマグニチュード4前後の、爆発物によるとみられる地震波を観測。正確には「間もなく」ではなく、直後だったことになる。 九月二十六日の安倍内閣発足からまだ二週間。しかも十七人の閣僚のうち十一人が初入閣という二重の意味での「若葉マーク内閣」である。だが「首相は慌てた様子もなく、『そうか』と静かに秘書官の報告を聞き、てきぱきと指示を出していた」と同行筋は語る。六日前に核実験を予告する北朝鮮外務省声明が出ており、想定内の出来事だったこともある。 実際、首相外遊中の対応マニュアルも出来上がっていた。一報が入った段階で首相臨時代理の塩崎恭久官房長官が関係閣僚を招集し、速やかに首相官邸の危機管理センターに官邸対策室を設置する。並行して自民、公明両党の役員会メンバーにも速報し、与党の対策本部の発足を促す。国会での集中審議や北朝鮮非難決議採択に向けて与党に正確な情報を伝える必要に加え、関係省庁の負担を軽減したい計算も働いていた。

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