10月下旬、北京を訪れた。ちょうど1年振りの北京訪問だったが、変化していないのは大気汚染である。PM2.5と呼ばれる微粒子がもたらす息苦しさを気にしないわけにはいかない。中国人は海外旅行を「洗肺」と表現するようになったという。11月第2週目の北京でのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)開催の折には、1週間の臨時休業と北京市内への自動車の乗り入れ規制が行われた。プレート番号を偶数と奇数に分けて、日替わりで片一方を侵入禁止にする「APECシフト」をとるに至ったのだ。

 

3つのD

 democracy(民主主義)、deleverage(債務負担の軽減)、deregulation(規制緩和)の3つのDが今日の中国の今日を映し出している、というのが私の総括だ。

 北京大学は広大な敷地のなかに諸学部や研究所が分散しているが、入口ごとの警備が厳重になっていた。学生を守るのではなく、学生が街頭に出ることに対する警告の意味があるとの説が有力で、香港における「占拠中環」の北京への波及に備えるもの、というべきだという。

 習近平体制における知識人対策は徹底化しつつある。論じてはならない7つのテーマが指定されている。たとえばそれは「公民社会」にも及ぶ。civil societyに当たるこの言葉は、21世紀の中国における新しい社会規範づくりに大いに役立つはずとされてきた。北京大学でも「公民社会」を研究対象とする社会学者や政治学者の若手が育ち、研究科もつくられた。権力関係を超える非政府系の主体(アクター)が果たす役割についての研究論文の積み重ねも続いている。しかし習近平体制の下では、いわゆる普遍的な価値の対中国適用にはきわめて警戒的な姿勢へと変化した。

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