歌舞伎の女形は、正座するシーンが多く、しかも長いときには三〇分も座り続けることがある重労働だ。そのために、ひざの関節が痛む膝内障などに悩む役者が多く、あるベテラン役者は人工関節を入れている。それは、医療器具メーカーのものではなく、船舶用プロペラ専業で最大手のナカシマプロペラ(岡山市)がつくったものだ。 なぜ船のプロペラメーカーが人工関節なのか。このエピソードは、日本の造船業の裾野の広さと技術力の高さを端的に物語っている。 人工関節は、高齢による慢性リウマチ患者の増加などから年々市場が拡大しているが、うち八〇%を外資系メーカーが占めている。国内メーカーでは、京セラと神戸製鋼所の合弁企業である日本メディカルマテリアルがシェア一〇%強でトップ。シェアは二%にとどまるものの、一九八七年の市場参入以降、存在感を高めているのがナカシマプロペラだ。 人工関節は、装着する人の体格や生活スタイルなどによって関節の形状を調整しなければならないオーダーメード品。しかし、フィットせずに周りの骨を痛めたり、化膿したりすることも多く、人工関節そのものを入れ替えることが珍しくない。 ところがナカシマプロペラの人工関節は、関節部が滑らかで、優れた装着感と動きを実現している。複雑な形状を持つ船のプロペラの加工技術が背景にあるからだ。中島基善社長は、「三次元の物体を磨いて形をつくる技術は既存の医療器具メーカーを上回り、医学部の先生をユーザー兼共同開発者として実績を積んでいる。当社の技術を生かせる有望な事業だと考えている」と語る。

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