「海洋強国」を目指す中国を侮るなかれ

執筆者:廣瀬肇2006年12月号

中国海運の急速な発展の裏には国家が意識して強化を進める海洋政策がある。その実態を調べれば調べるほど、わが日本の立ち遅れが気がかりになってくる。 二〇〇四年十一月十日に明らかになった中国原子力潜水艦のわが国領海侵犯事件や東シナ海における資源開発など、昨今、中国の海洋進出の動きが目立っている。しかし、こうした動きがメディアで大きく報じられる一方、その背景にある中国の海洋政策そのものについてはあまり知られていないのが現状だ。 中国は一九七〇年代頃から積極的に海洋に進出してきた。特に八〇年代以降は「領海及び接続水域法」を定めるなど、沿岸域管理を含め海洋管理制度を着実に整えてきている。 これに対しわが国はどうか。東シナ海のガス田問題ひとつをとっても、〇五年七月十四日に鉱業法に基づき帝国石油に試掘を許可するまで、国内石油会社からの東シナ海における鉱業権申請を三十年以上も事実上放置し続けてきたなど、海洋に関する問題への対応には、ほとんど見るべきものがなかった。 そうしたわが国を尻目に、いま中国は「海洋大国」「海洋強国」「造船強国」を国家目標に掲げ、石油開発、海洋環境保護、海洋開発技術の開発など、総合的な海洋政策を推進している。しかも、中国はすでに石油については世界第二位の消費大国であり、石油を含むエネルギー資源、食糧の輸入大国になっている。石炭などエネルギー部門や穀類や肉類など食料部門においては、いまや中国の消費量は石油を除いてすべて米国を凌いでいるのだ。こうした物資の輸入のほとんどは海運に依存する。中国が様々な施策を急ぐのも当然だ。

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