村上世彰はなぜ「完全自供」を翻したのか

執筆者:木村智之2006年12月号

内偵二カ月足らずで逮捕、そして“スピード保釈”。公判維持にマイナスとしか思えない検察の動きの裏に何があったのか。「やはりあの時、徹底的に捜査しておくべきだった」。東京地検特捜部の検事たちはいま、歯噛みする思いかもしれない。 ニッポン放送株のインサイダー取引事件で起訴された「村上ファンド」前代表の村上世彰被告が、捜査段階での“完全自供”から一転して、全面無罪を主張することになった。村上は知人たちに「ファンドを解散して裁判に集中する」と明かし、闘争心をかきたてているという。「村上のことだから、後になって否認するかもしれないとは思っていた。しかし、否認したところで、犯罪の事実を認めた自白調書の信用性は変わらない。ほかにも十分な証拠がある」 幹部がそう話すように、検察は立証に自信を見せている。だが、公判目前に村上の“裏切り”に遭ったのは、やはり大きな誤算だったのだろう。検察関係者は次のように打ち明けた。「村上は有罪か無罪か五分五分だ。だからというわけではないが、検察部内では村上を再捜査すべきだという意見すら出ている」 最強の捜査機関と評されてきた東京地検特捜部が、なぜ、公判前に証言を全面的にくつがえされる事態を招いたのか。検察の内部事情を探っていくと、検事総長の交代人事と密接に絡んだ二つの奇妙な出来事が浮かび上がってきた。

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