十一月十九日、沖縄県民は現実的決着を選んだ。だが、新知事のある公約は、またも沖縄を自縄自縛に陥れかねない。 米海兵隊・普天間基地の代替施設の建設が予定されている名護市は、沖縄の県都・那覇から高速道路を一時間も走れば着く。東京の感覚からすれば、決して遠くはない。しかし那覇のひとが名護に行くことはほとんどない。那覇市民にとって名護は、はるか北にある辺境の地に映る。 進んだ南部と遅れた北部――「南北問題」は沖縄の構造問題であり、南北の距離感が沖縄県知事選挙で自民党、公明党が推薦する仲井真弘多氏の当選につながった。大票田の那覇では、普天間基地の名護移設は、われらではなく、かれらの問題であり、仲井真氏が訴えた経済問題の方が深刻だった。 仲井真氏優位は十一月の選挙期間中に実施された世論調査ですでに明らかだったが、人気を誇った糸数慶子参院議員が出馬を表明した十月の時点では、それを予測したひとは少なかった。予想を覆した仲井真氏当選の理由を説明するのに使われたのが経済に焦点をあてた解説だったが、選挙結果を分析すると、沖縄政治の地殻変動とでも呼べる事実にぶつかる。 全体の得票は仲井真氏三十四万七千三百三票、糸数氏三十万九千九百八十五票である。二〇〇五年の衆院選での自民、公明票は二十六万票であり、仲井真氏が四年前に稲嶺恵一知事が獲得した三十六万票に迫るのは厳しいと地元の選挙プロは見ていたが、同僚の大久保潤記者(日本経済新聞那覇支局長)が作成した左上の表には逆転の秘密が潜んでいる。

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