一〇月三〇日に八戸港を出港した一隻の船が、一一月二九日午後七時四二分、アフリカ・ケニア北東沖の目的地に到着した。時速一〇ノット(約一八キロ)というゆっくりとしたスピードでインド洋を越えた。 船は、正月明けまでケニア沖にとどまり、その後はオーストラリア北西沖、同南岸沖へと移動し、二〇〇七年夏まで“アルバイト”をする。これら三海域の海底に眠る原油の埋蔵量調査をオーストラリアの資源探査会社から委託されたのだ。受託料は約一〇〇億円。総額六〇〇億円ともなった船の建造費の一部をしっかりと回収する。 独立行政法人・海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する地球深部探査(掘削)船「ちきゅう」だ。といっても、ちきゅうは石油探査のための船ではない。日本とアメリカが中心に進める地球内部の構造や地殻内生物の解明を目的とする「統合国際深海掘削計画(IODP)」の主力船として建造された。 地震大国の日本にとって大地震の原因となる地殻変動のメカニズムの解明は、国家の安全保障に直結する課題だ。その研究のためにちきゅうは、船から掘削ドリルを下ろして海底を掘り進んで土壌を採取する。最終的には、水深四〇〇〇メートルの海で、海底下七〇〇〇メートルまで掘り進む。つまり全長一一キロの長さのドリルが掘削作業を行なうのだ。七〇〇〇メートルとは富士山を二つ重ねた深さであり、地殻変動の原因となっている海底プレートだけでなく地殻の下のマントルまで採取できる。

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