温暖化対策を早急に講じなければ世界規模でGDP(国内総生産)が最大で二〇%減少する――元世界銀行チーフエコノミストが英政府の委託でまとめた「スターン・レポート」は、アジア市場でプレゼンスを維持したい香港証券取引所の“追い風”となっている。 十二月七日、香港証取は二〇〇七―〇九年の三カ年戦略計画を発表。目玉の一つとして「気候関連商品」、つまり温暖化ガス排出権先物取引などの環境関連デリバティブ(金融派生商品)の導入を打ち出した。官僚的な答弁が多い香港証取の周文耀行政総裁は、開始時期について明言しなかったが、香港証取の「今後」を考えれば早急に着手するだろう。 〇六年十月末に中国工商銀行によるIPO(新規株式公開)で賑わいをみせた香港証取だが、中国の国有銀行の上場は出尽くし、IPOだけでは今後の「品切れ」感が否めない。上海証券取引所との合併は常に噂され、次々と商品先物を導入するシンガポール証券取引所の攻勢を受けるなど、香港証取のアジアでの存在感を揺るがす事態は続く。投資家の香港離れを避け、他のアジア市場との差別化を図るためにも、「品揃え」を豊富にする必要があるのだ。 中国が、世界の注目を集める排出権の“大供給源”であることは、本誌十二月号で報じた通り。中国の二酸化炭素排出量は二〇三〇年までに二倍以上増加して七十一億トンに達することが予想され、皮肉なことだが、デリバティブの将来を明るくする数字といえる。省エネ効果が高く実際に温暖化ガス削減を担うはずのメーカーは不在のままに、金融面では活況を呈することになるかも知れない。

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