企業は史上最高の業績を謳歌するも、給与は上がらず、消費は低迷。そして政治は“逆コース”を進もうと……。 十二月五日午後、安倍晋三首相が福井俊彦総裁ら日銀首脳を招き、官邸でトップ会談をした。政府と日銀の定期会合は二〇〇三年三月に福井総裁が就任してから年一、二回の頻度で開かれている。安倍政権になって初の会談が耳目を集めたのはほかでもない。福井総裁が考える追加利上げを巡って、政府との微妙な鞘当てが繰り広げられているからだ。 首相、総裁のほか、政府側から塩崎恭久官房長官、尾身幸次財務相、大田弘子経済財政担当相、日銀側からは武藤敏郎、岩田一政両副総裁が同席した。福井総裁は「息の長い景気拡大が続く」との見通しを崩さなかったが、安倍首相は家計部門への波及の弱さを指摘した――。 翌六日の各紙はこんな具合に報道したが、官邸から出てきた福井総裁は言葉少なだった。「政府として今後も歳出改革を進めるので、(日銀は)金融政策によって日本経済を支えて欲しい」。会談後、首相は官邸内で記者団にこう述べている。 政府、日銀のすれ違いの背景には、個人消費の不振がある。一九六〇年代後半から七〇年にかけての「いざなぎ景気」を超えたと言っても、実感が湧かない。企業から家計への所得の移転が進まず、経済の主力エンジンである消費が冴えないからだ。〇七年の参院選を控え、実感なき景気拡大ではパンチ不足とみて、政府は日銀を牽制しているのだ。

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