銀行好業績の陰で「銀行系ファンド」の内実

執筆者:溝口憲次郎2007年1月号

 家電量販店のさくらやが、十二月一日付で業界七位のベスト電器に「身売り」された。金融関係者から買収額のわりに大きな注目を集めたのは、さくらやを手放したのが事業再生ファンド「フェニックス・キャピタル」だったからだ。 一九九〇年代にビックカメラ、ヨドバシカメラの二強にシェアを奪われ、メーカーからの仕入値にも大きな差をつけられて価格競争力を急速に失ったさくらやは、二〇〇四年にフェニックスから第三者割当増資と劣後ローンの注入を受け、一〇〇%子会社となった。今回、約二十五億円の第三者割当増資でさくらやの株式四〇%を引き受けたベスト電器は、三年後をめどにフェニックスの持ち分をすべて取得し、一〇〇%子会社化する方針だという。 フェニックスにとって、今回の売却は決して満足のいくものではなかっただろう。ベスト電器の取得価格(二十四億九千万円)からフェニックスの手元に残る株式(六〇%)の価値を算定すると三十七億五千万円。〇五年八月に劣後ローンから優先株に転換した四十五億円と合わせ投資総額は約八十五億円と見られるため、実際には五十億円近い評価損が発生した計算になる。「フェニックスはさくらや売却を他の大手家電量販店とも交渉していたが、値段の折り合いがつかず物別れに終わっていた」(取引銀行関係者)。つまり、損失覚悟で売り急いだというのが真相のようだ。さくらやの圧倒的なメインバンクは三菱東京UFJ銀行(旧東京三菱銀行)だが、同行は「資金繰りの面倒を一切みていなかった」(同)。さくらやは売上だけでは営業資金を賄えず、フェニックスがファンドの資金を使って資金不足を手当てしていたという。

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