北欧の光と闇の魔力

執筆者:大野ゆり子2007年1月号

 外に出ると、すでに夕闇が迫っていた。思いのほか美術館に長居したのかと慌てて時計を見ると、まだ午後二時半だ。ストックホルムでの冬の一日はこの調子で暮れていくらしい。 スウェーデン国立美術館では、十九世紀から二十世紀初頭のスカンジナビアの画家たちが、北欧ならではの風景をどのように描いたかというテーマの美術展を行なっていた。うっそうと茂る森、湖の澄み切った水面に映る真昼のような白夜の青空、雪解け水が堰をきって流れる壮観な春のフィヨルド――。 興味深いのは、北欧の美術史では、自然を美化せずにあるがままに描く「写実主義」から、表向きは具象画のように見えても、その裏に画家が自分の主観的な心象風景を潜ませている「象徴主義」に突然移行してしまうことだ。フランス美術史の変遷のように、この間にあるはずの「印象主義」が、この北の土地ではすっぽりと抜け落ちてしまう。 印象派のモネやシスレーは、陽光が一日の間に変化する様子をあますところなく写し取りたいと、画架を持って戸外に飛び出した。フランスで一番美しいといわれる、パリ南東のフォンテンブローの森では、金色に輝く朝の光から、深紅に燃える夕焼けまで、色彩を変える木漏れ日と好きなだけ戯れることができただろう。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。