[モスクワ発]「環境破壊」という国家主導の脅迫カードを使って、完成間近の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」を半ば強制的に国有化することに成功したロシアのプーチン政権は、これに味をしめ、ロシアで活動するほかの有力な外資系事業にも同様な脅しと揺さぶりをかけている。その先にある狙いは、さらなる巨大国営エネルギー企業の設立と、その権益奪取ではないかとの見方が有力になってきた。
 サハリン2を主導する英蘭系石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事の三社は昨年十二月二十一日、ガスプロム側に経営権を移譲することに合意した。これを受けてプーチン大統領は、外資が示した「柔軟な姿勢」に感謝を表すと同時に、二〇〇八年に本格化する北米や日本などへの液化天然ガス(LNG)輸出義務は契約通りに果たされると強調。外資の最高幹部らと会談したプーチン氏の顔には、終始笑みが絶えなかったという。
 合意によると、外資側は三社が保有株をそれぞれ半分ずつ譲渡し、これにシェルが一株を上乗せして、ガスプロムが合わせて過半数の五〇%プラス一株を譲り受ける。譲渡の対価は七十四億五千万ドル(約八千六百四十億円)と決められた。
 それでもロシア天然資源監督局は今春、サハリン2に最大三百億ドル(約三兆四千八百億円)もの環境破壊賠償請求を提訴すべく準備を進めている。ガスプロムへの経営権譲渡が決まったことで、賠償請求額は三十億ドル程度に圧縮されるとの観測もあるが、いずれにせよ、エネルギー価格が高騰する中で、ロシアが数十年にわたって莫大な利益を生む「金のなる木」を破格の安値で手に入れたことは間違いない。
 今回の譲渡により、シェルの権益は二七・五%に、三井は一二・五%、三菱は一〇%にそれぞれ半減。ロシアで唯一、外資主導で行なわれてきたソ連崩壊後初の巨大開発事業は消滅し、十年以上の歳月と総開発費二百億ドル(約二兆三千二百億円)をかけた事業は、完成を目前にして、事実上、ロシアの国営事業となることが確定した。ガスプロムによる事業の強引な買収を望んでいた大統領の頬が緩まないわけがない。

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