「恐いロシア」への後戻りに身を凍らせる欧州

執筆者:マイケル・ビンヨン2007年2月号

リトビネンコ殺害事件の衝撃は大きかった。気がつけば、先祖返りした恐怖政治国家が眼前に。欧州の懸念は強まる一方だ。[ロンドン発]ロシアとヨーロッパの関係が急速に冷え込んできた。 ロシアが近隣諸国に天然ガスの価格引き上げを迫るなど、エネルギー供給をめぐる緊張は恒例化しつつあるが、いま最大の問題は政治的な緊張だ。プーチン率いるロシアが、国内では反体制運動を許さず、外国からの干渉を拒み、西側諸国を潜在的な敵と見なす、ある種の専制体制に急速に戻りつつあるのではないかとの懸念がヨーロッパに広がっている。近隣諸国を脅かすのは冷戦時代のような共産主義ではなく、ロシアを席捲する、ファシズムにも似た新たなナショナリズムだ。 こうした見方をヨーロッパが強めたのは、いうまでもなくアレクサンドル・リトビネンコの暗殺があったからだ。ロンドンに亡命していたKGB(ソ連国家保安委員会)時代からの工作員で元FSB(連邦保安局)中佐が放射性物質で毒殺されるという尋常ならざる事態にヨーロッパは震撼。ギャング国家ロシアという昔のイメージが呼び覚まされた。 リトビネンコの死は、冷戦時代のスパイ小説そのものだった。十一月一日、ロンドンのホテルで二人のロシア人に会い、続いてKGB専門家を名乗るイタリア人と日本料理屋で寿司を食べたリトビネンコは体調を崩す。当初、盛られたのは毒性の重金属タリウムだと見られた。しかしリトビネンコの状態は悪化。同月二十三日に死亡する直前、彼はプーチンを名指しで非難した。「あなたの残りの人生、世界中から抗議の怒号が耳に響くだろう」。昏睡状態に陥るのと前後して、イギリスの医師団はようやく、使われたのは放射性物質ポロニウム210だったと診断した。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。