ナイジェリアのイスラム武装組織ボコ・ハラムが1月3日、同国北東部ボルノ州バガにあるナイジェリア政府軍基地を制圧した。バガの街はニジェール、チャド、カメルーンの3カ国との国境に近く、軍基地には対ボコ・ハラム合同治安部隊の本部が置かれていたため、基地制圧のニュースはボコ・ハラムの勢力拡大を象徴する出来事として、NHKをはじめとする日本のメディアでも報道された。

 ボコ・ハラムは2014年4月に女子生徒200人以上を拉致したことで日本でもその名が知られ、筆者も当欄において過去に何度かボコ・ハラムに関する記事を執筆してきた。組織の特質や成立の経緯についてはそれらの記事をご参照いただければ幸いだが、ここでは日本のメディアが報じていない点について書いておきたい。それは、ボコ・ハラムが多数の民間人殺害や拉致を引き起こしながら、なぜ活動を続けることが可能なのかに関わる事柄である。

 

軍発表と全く異なる事実

 今回のボコ・ハラムによるバガの政府軍基地制圧について、日本のメディアは「イスラム過激派による拠点基地の制圧」という点にニュース性を感じ、報道したに違いない。ナイジェリア政府軍が劣勢にまわり、ボコ・ハラムが制圧領域を拡大していけば、いずれ危険なイスラム国家がナイジェリア北東部に誕生してしまうのではないか。ニュースの価値判断に当たって、記者や編集者には、そうした思考が働いただろう。このニュースは、「イスラム過激派によるバガの支配は危険な兆候であり、ナイジェリア政府軍によって支配されている街は、より安全である」という前提で、暗黙のうちに価値判断され、報道されている。だからこそ、今回のボコ・ハラムによるバガの制圧は「由々しき事態」として、ニュースになったのである。

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