GMを抜き去りたくないトヨタの足踏み

執筆者:山内桂也2007年2月号

“先行者に並んだら一気に抜け”がマラソンや駅伝の鉄則。だが、自動車産業はそうはいかない。トヨタは“穏便に”世界一を目指す。 トップスピードで走り続け、「世界一」の座をほぼ手中に収めたトヨタ自動車が突如、アクセルを緩めた。 昨年十二月二十二日に年末会見で発表した二〇〇七年のグループ(ダイハツ工業と日野自動車を含む)の世界生産計画は、前年比三十八万台増の九百四十二万台。世界首位の米ゼネラル・モーターズ(GM)の前年実績見込み(約九百十八万台)を初めて上回り、達成すれば世界一へと躍り出る。ただ、ここ数年続いた五十万―七十万台増という生産拡大のペースからすれば「やや控え目」な増産計画という印象は拭えなかった。 トヨタ減速の理由の一つには、リコール問題に揺れたこの一年、渡辺捷昭社長が「トヨタの生命線」と強調する品質の維持・向上の総点検に時間を要したことが挙げられる。 だが、最大の理由は、GMの失速で予想以上に早く訪れた盟主交代への「環境整備」に必要な時間を稼ぐためである。全盛期を過ぎたとはいえ、自動車産業はいまだに米国の象徴だ。米国勢と対照的なトヨタの順境は、自動車摩擦の火種を孕む。瀕死のGMを圧倒的なスピードで抜き去り、これ見よがしに置き去りにすれば、無用の反感を買いかねない。意図的な「足踏み」は、摩擦回避への配慮だった。

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