“The Road to Serfdom”Friedrich A. von Hayek著University of Chicago Press 1976年刊日本語版には『隷属への道』(西山千明訳、春秋社、1992年刊)と『隷従への道』(一谷藤一郎・一谷映理子訳、東京創元社、1992年刊)がある「冷戦」のことを語り出すと、今ではときどき若い人たちから笑いものにされる。それもしょうがないか、という気もする。なにしろ、ことし大学に現役入学するのは一九八八年生まれなのだ。ベルリンの壁崩壊の前年である。ことし就職する学生たちでさえ、その年には幼稚園に上がったか上がらないか。冷戦などといってもピンと来ないのは当然だ。 世界が東西二陣営に分かれて、とてつもない数の核ミサイルを向け合って、「恐怖の均衡」の中で生きていたあの時代。それよりも居心地が悪かったのは、われわれの身の周りの冷戦だった。「史的唯物論」だの「下部構造」だのと、生煮えの言葉をちりばめて世界を解釈してみせる人士がどこにでもいて、まさに人々の「頭の中」でも冷戦が起きていた。 そんな時代を知らず、「冷戦」という言葉に「今どき、なに言っているの」と笑う若者たちの方が、まともかもしれない。もう遠い過去なのだ、きっと。

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