円安が進んでいる。実効レートで行くと、一九八五年のプラザ合意直前の水準であるというから驚く。輸出企業にとってはまことに結構なことであるし、今回の景気回復局面を持続させるためにも、当面は円安さまさまといったところであろう。 しかるに現在の日本経済は、経常黒字は拡大基調にあり、特段にファンダメンタルズが悪いわけではない。なぜ円安が進むかといえば、強いて言えば、通貨としての円の魅力のなさが原因である。 中国の飛躍的な貿易量拡大に伴って、貿易決済通貨としての円の比率が相対的に低下している。対日直接投資もあいかわらず低調だ。そして財政赤字の巨大さや日銀の力量への疑問もあいまって、「利上げできない通貨」の存在感は薄まる一方だ。 しかし二十年前には、円が文字通り光り輝いていた時期があった。『日米通貨交渉』は、その一九八〇年代における円の歴史を追った労作である。 通貨の歴史は、通貨マフィアと呼ばれるごく一握りの人々によって担われている。下手をすれば歴史に残ることなく消えてゆく。それを、当時の第一次資料や証言を元に、歴史の再構築を目指したのが本書である。例えば内海孚・元財務官が駐米日本大使館の公使であった時代の「応接録」には、レーガン政権当時の対日交渉の内部事情が生き生きと描かれている。

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