三角帆をたたんだ一隻の木造帆船「ダウ」が、ゆっくりとアラビア湾から入港してきた。ここはアラブ首長国連邦の国際貿易都市ドバイ。意表をつくデザインの高層ビルが林立する旧市街の真ん中に、昔ながらのダウ船が出入りする港がある。英国系インターコンチネンタルホテルの真正面なので、迷うことはない。現代と中世が同居する何とも不思議な都市、それがドバイだ。貴金属店が並ぶゴールド・スーク(市場)に近接して、ドバイ・クリーク(運河)が市内を分断する。 このクリークを眺めていると、ダウ船を通じて日用雑貨や貴金属、ナツメヤシや香辛料、電気製品からオートバイ、さらに小型自動車にいたるまで、ありとあらゆるモノの交易がなされているのがわかる。最近では「ダウ」のかわりに「サンブーク」という呼称が一般的だという。 旧市街ではダウ船が接岸できる港が限られており、何隻ものダウ船が荷揚げ作業の順番を待っている。見たところ、ドバイ・クリークでは動植物検疫は皆無、税関や警察官の姿もない。日本や欧米では、テロ対策が強化されたため、国際貿易港に許可なくして足を踏み入れることはおろか、岸壁で魚釣りも禁止されるご時世なのに、である。日本人の目から見ると、密輸の現場とさして変わらない有様だ。

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