ローマでも起こった「赤ちゃんポスト」論争

執筆者:シルヴィオ・ピエールサンティ2007年4月号

熊本の病院が設置準備を進める「赤ちゃんポスト(こうのとりの揺りかご)」。イタリアではつい先ごろ、同様の設備に一人の赤ん坊が入り……。[ローマ発]母乳にお風呂、清潔な服。母親はわが子を慈しみ育てていたに違いない。だが生後三カ月か三カ月半が過ぎたとき、二人の身に何かが起こった。第三者は知る由もない、よほどの事が。ある土曜の雨の夜、母親(あるいは伴侶か親戚か……)は赤ん坊を置いていった。晴れ着を着せ、幸運を祈りつつ。 二月二十四日夜、ローマ東部カジリーノ地区での出来事だ。煤けたビル、違法建築や粗末なバラックが建ち並ぶスラム街では、水道、電気、暖房もない劣悪な環境の下、何万という途上国からの移民がイタリアの貧民層と鎬を削りながら、生きるための闘いを日々繰り広げている。ここでは、新生児が路上やゴミ箱に置き去りにされる事件はあとを絶たず、運良く息のあるうちに発見・保護される赤ん坊はごくわずか。新生児遺棄などニュースにもならない。 しかし、今回の一件は新聞各紙の第一面を大きく飾った。同地区のカジリーノ総合病院が設けた「赤ちゃんポスト」(イタリア語ではculla termica=暖かい揺りかご)に託された赤ん坊第一号だったからだ。

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