芸大の学生に伝えたかった芸術家として生きる技術

執筆者:インゴ・ギュンター2007年4月号

 日本語をほとんど解さない私を一年間客員教授として迎え、学部生と大学院生を任せてくれた東京芸術大学音楽学部の「勇気」に、まずは感謝したい。 幸運であり、同時に悩ましくもあったのは、教える科目が「芸術」だったことだ。美術史を教えるなら話は別だが、そもそも芸術とは何であるか、定義さえ難しいものを教えようというのだ。芸術は科学ではないし、必ずしも知的活動や努力の成果である必要もない。芸術は「起こる」ものである。 絵画や彫刻といった技術なら、ある程度教えることはできる。しかし、現代の芸術はインスタレーション(展示)やメディアアートなどあらゆる領域に広がっている。それを教えることなど可能なのか? 成績をつけることはできるのか? こうした疑問が湧くのは当然だ。 私が学生に伝えたかったのは、芸術家として生き延びるための技術だ。これが最も具体的な目標だった。アイディアをいかに人に伝え、発展させ、売り込むか。人とどう協力し、自らをブランド化するか。自分を信じると同時に客観視することも怠るな――そう教えたかった。 私自身の学生時代を振り返ると、教授よりも同じ学生である若い芸術家から学ぶことの方が多かったが、偉大な師にも巡り会えた。なかでも国際的に著名な二人の師との出会いには大きな影響を受けた。一人は『方法への挑戦』で知られる哲学者のポール・ファイヤアーベント、そしてもう一人は、ビデオアートの父と呼ばれるナムジュン・パイクだ。パイク教授との会話から、私は世界や芸術、自分自身について理解を深めた。

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