[ウィーン発]セルビア南部に位置するコソボ自治州の独立問題が新たな局面に入ろうとしている。 人口二百万人の九割をアルバニア系住民が占めるコソボは、一九九〇年にセルビアによって自治権を剥奪されて以来、「セルビア人の国家」からの独立を求め続けてきた。しかし、九一年のスロベニアの独立に始まった旧ユーゴスラビア連邦の解体でも、コソボ独立は「第二次世界大戦で画定した国境線維持を記した七五年のヘルシンキ宣言の変更につながる」として、国際社会の支持を得られなかった。両民族の対立は次第に激化、九九年には北大西洋条約機構(NATO)軍がコソボのセルビア軍部隊を空爆する国際紛争に至った。セルビアが撤退を受諾して以降、コソボは国連の暫定統治下にある。 国連が主導する形でコソボの「最終地位」をめぐる交渉が始まったのは昨年のこと。独立をこれ以上先延ばしすれば、両民族の対立が再び暴力による衝突に発展する懸念が高まったためだ。アルバニア系住民の多くはイスラム教を信仰しており、交渉開始の背景には、イスラム原理主義運動のコソボへの浸透を恐れる米国の存在も見え隠れしていた。 今年二月二日、アハティサーリ国連事務総長特使(前フィンランド大統領)はコソボに独自の憲法と国際機関への加盟権を与えるなど「事実上の独立」を認める調停案を提示、二月二十一日からウィーンで最終協議を始めた。しかし「コソボはセルビアの領土の一部。調停案は主権侵害」と主張するセルビアと、コソボの対立は、インドネシアのアチェ紛争解決に辣腕を発揮したアハティサーリ特使をもってしても解けぬまま。三月十日にウィーンで開いた最終協議でも合意に達せず、特使は交渉打ち切りを宣言、三月中に国連安全保障理事会に報告書を提出すると発表した。

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