ならず者の砦

執筆者:徳岡孝夫2015年3月12日

 ファンファーレが鳴る。「開会式を行いまーす」と、力強い声が甲子園原頭から全国に届く。それを聞いた日本全体の気分が昂揚する。国歌吹奏のうちにセンターポールに国旗が上る。

 私の誤り多い記憶によると、あの式次第は、高校野球を主催する新聞社が日本の愛国心を40数個のコマ切れにして売っていたのである。愛国心は新聞紙面でさんざん叩かれても生き残る、それほど強固なものである。

 英語にPatriotism is the last bastion of scoundrels.(愛国心は、ならず者の最後の砦)という諺がある。国を愛するのは自然である。美しい。気高い。だから多種多様なならず者が、自分は愛国者だと信じ、世間にもそう宣伝して信じさせ、愛国心のカゲに隠れて悪事を働く。愛国心は最も利用されやすい最後の隠れ蓑(最後の砦)だ、というほどの意味である。

 ソウルでリッパート駐韓米大使が刺され、かなりの傷を負った。加害者は、同じ講演会に来ていた政治団体代表(54)で、大使は頬に11センチ、深さ3センチの切創を受け、指や腕にもケガをしたというから、近くに咄嗟の事故に備える警備員などはいなかったらしい。

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