楽観主義者同盟の人びと

執筆者:大野ゆり子2007年4月号

 人間は自分が幸福だということを知らないから不幸なのである、とドストエフスキーは言った。ロシアの文豪は正しい。携帯電話やインターネットが普及し、あと二十年後には家事をするロボットができるといわれるぐらい生活が便利になっても、人間が前世紀より幸福とは限らない。 英エコノミスト誌は、これまでの経済理論では考慮されなかったファクターとして、「幸福(とその測り方)」を特集した。その中で一九五〇年よりはるかに豊かになった現在の日本で、「自分は大変幸福だ」と答える人の数が増えていないことを指摘している。 世界で初めての「楽観主義者同盟」を作ったベルギー人、ルック・シモネ氏(五三)は、ものごとの良い面を見て、自分が幸福だということを肯定する運動を、サバティカル休暇を利用して始めた。資産家の財産管理などを専門とする弁護士として活躍していた氏は、資産が人を幸福にしない例を、数多く見てきた。自分の娘に資産を奪われると疑心暗鬼になった老資産家には、「あなたは、確かに長年、熱心に働いたあまり、お嬢さんとの時間も犠牲になっていたのではありませんか。その時間と愛情の償い、という発想をしたらどうでしょう?」と言った。ずいぶん後になってだが、あの時、ああ言ってくれてありがとうとお礼を言われたという。

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