行き交う車の台数があまりに少ないので、実際には普通の舗装道路なのだが、高速道路を走っていると錯覚してしまった。首都プノンペンから車で南西方向に三時間半。カンボジアで唯一の国際貿易港シアヌークビルに到着する。 かつてコンポンソムと呼ばれた港は、前国王シアヌークの名前に因んで「シアヌークの街(シアヌークビル)」と命名された。 そこに今年一月、小さな国際空港が開業した。世界遺産アンコールワットで有名な町シェムレアップとの間に、ロシア製のプロペラ機アントノフ24を就航させ、アンコールワットを堪能した観光客を、海洋リゾート開発中のシアヌークビルに誘致する胸算用だ。週に三便程度だが、今年中にはボーイング737の中古機を導入する予定だと、地元の観光業者の鼻息は荒い。 アンコールワット以外に目ぼしい観光資源がないカンボジアは、これによって世界中の観光客を集めるタイのプーケット島や歓楽街パタヤを目指す。 このシアヌークビルに、中高年の欧米人が僅かな資金を持ちこんで、プレハブ風のホテルやレストランを経営し始めた。とても日本人受けするとは思えないが、一泊七米ドル(約八百四十円)前後で宿泊できることから、長期滞在志向の欧米人にとっては格好のリゾート地になるかもしれない。かつて貧しい漁村であったプーケット島が国際リゾートに変身したことを思い起こせば、シアヌークビルの青写真もまんざらではない。

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