「少子化」という言葉が国民生活白書に初めて登場してから今年で十五年、「少子化の流れを変える」と政府が宣言してから三年が経過する。一九九〇年の「一・五七ショック」以降、政府は実に多様な対策を検討し実行に移してきたが、その間も日本の合計特殊出生率は低下し続け、ここ数年は一・二台という国際的に見ても極めて低い水準で推移している。これまでの対策が、出生率の反転や下げ止まりに繋がらなかった要因は二つあると常々考えている。ひとつは、家族政策や少子化対策に配分される財政規模の問題。もうひとつは、政策を強力に推し進めることに対する国民的な合意が未だ完全には成立していないことである。『少子化克服への最終処方箋』は、これまで政府や企業、地方自治体や地域、個人が出生率回復のために何を行なってきたか、または行なってこなかったかを丁寧に分析し、説明した上で、その改善すべきポイントを提示している。 手厚い家族政策や育児と仕事の両立支援に支えられて二〇〇六年の合計特殊出生率(速報値)が二・〇を超えたフランスや、男女平等と個人の独立を基盤としながら「育児の社会化」を実現したスウェーデンなど、出生率反転に成功した国と同等の家族政策を導入するには年間八兆―十兆円規模の財政投入が必要とされ、日本の現状には到底そぐわない。著者らは、財政負担を抑制しながらも実効性のある対策を求めて「アジア型少子化対策」を調査し、具体的な提言を行なっている。中でも企業が両立支援に取り組むことのメリットや、それを社員全体の生産性向上に繋げるためのヒント、従業員による「働きやすい企業」の評価とそれに基づく表彰制度など、「財政」という制約を補う説得力あるアイディアが満載である。著者(特に渥美氏)の実体験や豊富なヒアリングデータに基づいた「多能工化」や「誰でもできる化」といった解決策は、両立支援のみならず生産性や業績向上にも有効だろう。これらを参考に多くの企業で具体的な取り組みがなされることを期待したい。

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